Orbs



東京Orbitでの約一ヶ月間の個展が無事に終了いたしました。

11月2日のクロージングパーティでの、
Live PaintのShow Caseは初めてディレクターが入り、
約20分の中で、ダンス、朗読、ペイント、音というとても新しい形で
表現させていただきました。
昨日経験したの生の現場の感覚、
あのフロアの中にいた全ての皆さんでつくりあげられたあの熱気、
僕は一生忘れません。

ご来場いただいたすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。
そして多忙の中かけつけてくださった出演者陣、関係者陣の皆さま
ほんとうにほんとうに、ありがとうございました。


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Special Live Painting

ダンス: Yanchi (InLakech')
朗読: 中越典子

音楽: 横瀬裕貴
絵:田代敏朗

Set List:
Annett Focks-Das ist mein (Yanchi)
Manual-Midnight Is Where The Day Begins

Direction:幸田泰尚


第一章


絵を「描く」ということ。
それは、長い旅。
それは、覚悟。
それは、苦しみ。
それは、愛。
それは、生きるということそのもの。
それは、すべて。
まだ私が小さかった頃、絵は夢中で描くものだった。
母が与えてくれた、白いキャンバス。
それは誰かに見られるためのものでも、判断されるためのものでもなく、
ただ、夢中で空想し、観察し、心のありのまま。
いつしか「絵」は心の中で「概念」という形で私を映し出す対象になる。
色、形、すべてが自分という存在の輪郭を作っていくかのように、
ただひたすら自分の中のものと、外のものの境界線を描いていく。
表現することに執着した心は迷い、悩み、逃避し、
いつしか外の人間や世界とばかり比較し、
自分が認められることだけに執着し、
都合がいい時は人のせいにし、
絵を描いていた、毎日。
その時の絵は、鏡のように私の中の醜さを映し出し、
終わりのない螺旋階段を、暗闇の先へ登っていく。
しだいに心の中で育ったエゴイズムは、
枯れた葉っぱの輪郭のようにギザギザと、
瑞々しい何かを失わせていく。
そっと手を握っただけで粉々になって散っていく。
まだ私が小さかった頃描いた絵を、あなたはいつも笑って見ていてくれた。
褒めるわけでもなく、正すわけでもなく、ただじっと見つめてくれていた。
今、描いた私の絵を、あなたはどんな気持ちで見てくれるだろうか。




第二章


2011年3月11日。
それは、私たちの日常に、何の足音も立てずに突然やってきた。
想像を絶するその光景を目にして、私は涙した。
それは、何も残さなかった。
それは、生きている私を残した。
私は何も、残せなかった。
何の力になるのかはわからなくても、毎日祈った。
直感を信じて、流れるまま。

夏の夜。
夢を見た。
今まで心に溜まっていた膿(うみ)のようなものが
溶岩みたいにどろどろと、流れ出ていくような夢。
それは私の中の、愚かで醜い感情の全て。
そして私は、尊い何かに気付き、
あなたの愛を知り、
生まれ変わった。
秋の朝、

透き通った空気のように、
木の葉から落ちる、雨の雫(しずく)のように、
「母」という絵を、描いた。
やさしく、自然な心のままで。

秋。
北の街の片隅。
あるガレージの中で絵を描いた。
「困ったことがあったら何でも言っておくれ」とおじいちゃん。
「お茶でも一緒に飲まないかい」とおばあちゃん。
周りのやさしい気持ちに見守られて、私は5メートルの絵を描き上げた。
おじいちゃんとおばあちゃんが私の絵を見て、拝んでいた。
私は胸が熱くなり、こう聞いた。
「おじいちゃん、こんな大変なことがあったあとに、絵は必要ですか?」
「あなたの絵の中にたくさんの命がある、
だから、感謝しています。ありがとうございます」
私は精一杯、涙をこらえて言った。
「俺、この絵をおじいちゃんにあげます、もらってください」
おじいちゃんは言った。
「そんな、画家様の絵なんざ、私はいただけない。
私どもは絵を買うなんか、この生涯できないよ、お金がない。
いただくなど、そんなに怖いことはない」。
「いくらなら絵を買ってもらえますか?」
「ただでもらうのには失礼があるし、

人様からいただくには必ずお金が交換条件だ。

それでこそ私にも価値を見いだせる。

5000円でなら、今の私でも買える。」
私は湧き出る直感に従い、

描いた絵をすべて5000円で売ることに、決めた。

誰に何を言われてもいい。

芸術とは孤高の存在である「べき」ではない。
断片的な「今」というかけがえのない日常に、そっと寄り添うあたたかいもの。

絵を描くということ、
それは、長い旅。
それは、覚悟。
それは、苦しみ。
それは、愛。
それは、命をつなげるということ。
それは、生きるということそのもの。
それは、すべて。

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朗読原文「私が5000円の作品を売る理由」を幸田泰尚がリライト

私が5000円の作品を売る理由 



TOSHIAKI TASHIRO EXHIBITION PARTY
ORB@ORBIT 三軒茶屋
11/2(Sat)
20:00-05:00
¥1,000(+1Drink Order)



Special Live Painting:
田代敏朗×中越典子×横瀬裕貴
×YANCHI.(In Lake'ch)

Dance:
ya-shin

Visual Lighting:
L.E.V.360

Store:
Healing Garden PELEKA

DJs:
NAIZ
nkz
izm
yas
YOK

Photograph:
河内智子

Direction:
幸田泰尚





全ての皆様へ

感謝

田代敏朗

2013/11/7
Tashi